走れよメロス

メロスは激怒した。

頭に血が上りやすいんだよね、メロス。さあ、ではメロスに密着してみよう。

正義感だけはあるんだけど、勉強とかは残念なメロスが妹の結婚式の買い出しでシラクスの街にやってくる。なんか雰囲気が暗いからってことで何の罪もない老人をつかまえて恫喝する。王が虐殺をしていると聞いて真偽も確かめずに暗殺じゃーつって短剣持って城に入っていく。捕まる。王に悪態をついて死刑を宣告される。国王殺人未遂の上、てんで反省の色なし。当然の流れ。同情の余地なし。

死刑にされるのは別にいいけど、妹の結婚式に出たいんだよね。セリヌンティウスてやつを人質にして、もし俺が戻って来なかったら殺っちゃっていいから

深夜に突然しょっぴかれたセリヌンティウスかわいそう。ちょっとメロスが何言ってるかちょっと全然わからない。無言でうなずくことしかできない。

村に戻って「明日結婚式にするから」と突然言い放ち、ざっくり準備をして寝る。メロスは実によく寝る。

結婚式の当日、メロスは深酒かっくらって気分は上々。雨だし、一眠りしてから出発しよう。そんでしっかり寝過ごす。いかんいかんと走り出すものの、やだなーでも行かなきゃなーって、サラリーマンの出勤かよ。そのうち、のんびり行くかと歌いながらぶらぶら歩く。ここまででかなり時間をロスっている。

やがて目の前には氾濫した川。予想して早めに出ておけ。まあでもここは頑張る。猛烈な勢いで向こう岸にたどり着く。そして次は山賊。お前ら王の手下だろうと思い込み、他人にはすこぶる厳しい正義感であっという間に殴り倒して峠を駆け下りる。メロス強し、山賊弱し。

活躍もここまで、疲労困憊で膝をつく。

もう疲れちゃったし、俺頑張ったし、もう無理。身代わりとかどうでもいいもん。どうせ俺は卑怯者だもん。おうちに帰っちゃうんだもん。

そして寝る。

セリヌンティウスかわいそう。

ふと目が覚めてそばの湧水を飲んで元気回復。やっと走る。物凄い使命感に自己陶酔しながら走る。裸で血を吐きながら走る。ランナーズハイ状態で何とか間に合う。

メロスはセリヌンティウスに言う。途中で一度悪い夢を見たから殴ってくれ、と。
いやいや、一度じゃないし。思い切り殴ってよし。音高く頬を殴る。

セリヌンティウスはメロスに言う。俺も一回疑っちゃったから殴っていいよ、と。
その疑いはビンゴだから、責められないから。でもメロスは腕にうなりをつけて頬を殴る。描写からしてこれはきっとグーパンチだ。

セリヌンティウスかわいそう。

突然、王が二人のやり取りに乗っかって美味しいところを持っていく。あげくにセリヌンティウスが下ネタギャグをかます。

めでたしめでたし。

[amazonjs asin=”4061487922″ locale=”JP” title=”走れメロス 新装版 (講談社青い鳥文庫 137-2)”]

実際、どの程度の走りっぷりだったかを検証してみたい。村とシラクスの距離は10里、つまり約40kmある。
最初にシラクスへ行った際は、未明に出発し買い物の後に日が落ちている。出発を5時、到着を15時だとして、平均時速は時速4kmとなる。特段急ぐ必要のない買い出しなので、普通の人の歩行ペースはうなずける。10時間歩きっぱなしではなく休憩も取っているだろうしね。
シラクスから村へ戻った際は深夜に出発、翌日の午前で人々が仕事を始めた頃に到着している。出発を12時、到着を9時とすると、同じく距離は40kmなので単純に割れば平均時速は4.4km。夜中だから足元も不安だろうし荷物があるのに最初の訪問よりは急いでいる。
そして村からシラクスへは薄明の頃に出発し、真昼に氾濫する川に着くが、ここが行程の半分となっている。5時出発で12時到着としてみるとここまでのところで時速2.9km。二日酔いがあるかもしれないが、休養十分にも関わらず実にだらくそしてる。
川を渡りきると日が西に傾いている。ちょっと川に時間をかけ過ぎなんだが仮に15時としておこう。山賊とのやり取りはせいぜい数分だろうからロスタイム無視。お昼寝時間を30分間とし、到着を18時だとすると、所要時間は2時間半。時速8km。なるほど確かに走っている。健康的なジョギングペースで。
お昼寝がもっと長かったのならラストスパートのスピードはもっと速かったことにはなるんだけれど、どっちみち「マジで頼んますから走ってくださいよ~メロスさん」に違いない。

アバター画像

taquinoy について

もう全然更新していなくて、今後も更新する予定は立っていなくて、でも捨てられずに残しています。
カテゴリー: Monologue パーマリンク

走れよメロス への1件のコメント

  1. アバター画像 taquino のコメント:

    ★自己フォロー
    これを書いた後で「走れよメロス」で検索したら、走行スピードについてはなんと中学生が同じような(もっとしっかりしたと言えるような)自由研究の小論文を書いていたそうだ。
    もちろん、文学としての価値というものは私の駄文やこういう考証で変わるものではないことは言うまでもありません。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください