そこのあなた、サドルをもっと上げなさい。
俺は見ちゃったんです、がに股でルイガノに乗っているデブを。
いやあ、ちょっとね、お高いロードレーサがあまりにももったいない。
えっこらノロノロ走っていたから、追い掛けて声をかけるべきだったか。なんてね。
もう2度と会いたくもないので、言いたいことをここに書いておこう。
おっと、先に行っとくけど、人間工学とかスポーツ科学みたいなものは学んではいません。実体験と推測に基づいて話をします。だから、異論もあるかもしれないけど、まあちょっと聞いてください。
とにもかくにも、がに股はあり得ない。
もちろん格好悪いが、問題はそこじゃない。
がに股の問題その1
脚力を自転車に伝えるための効率が悪く、長距離を走ると無駄に疲れてしまうはずなんだ。腿を鍛える修行のつもりならアリかも知れないけど、膝にも良くない。そして些細なことだけど、下り坂とかでペダリングしていない時に膝を伸ばして休むこともできないわけだ。ああ、そんなに長距離とかは考えてないのか、なるほどね。
がに股の問題その2
ペダルはね、つま先とまでは言わないが、足の指の根元辺りで踏むものなんだ。がに股ってことはさ、お前さん、かかとで踏んでるだろうが。ペダルは上下に踏み込むだけじゃない、回転運動だってことは君の頭でも解るだろう。足首を使わないでどうやって回転運動に合わせていくつもりか、考えているのなら聞かせてもらおう。
がに股の問題その3
オートバイでもがに股は危なっかしいわけで、自転車でも同じくバランスの安定性が全然違うんだよ。がに股自転車を見てるとペダリング中、足の動きによる左右のブレが凄いんだよね。プロレーサーとかのダンシングはわざと左右に振っているのであって、通常運行時にはブレなんて起きないことなのにさ。
それに、それだと手放しでは乗れないよね、うん、まあ、公道で手放しは危ないからやらなくて良いけど。下り坂とか、ペダリングしていない時の高速安定性はまさしくニーグリップで可能になるんだよ。
おっと君はバイクもがに股で乗ってそうだね、あれって何でなのか今度聞かせてね。
がに股の問題その4
君の場合は短いから大丈夫だろうけど、脚が横に出っ張った分だけ危ないんだよね。歩行者にぶつける危険性もあるし、第一、それじゃあ狭いところ通れないでしょう、脚の長い人の場合だけど。
どうせスピードなんか出さないだろうから、空気抵抗が大きいってことはまあ忘れてもいいよ。
さあ、ではどうやってこの問題は解消するのか。
ルイガノは諦めてスーパーのママチャリに乗り換えよう。免許取立てで初心者マークをマセラティビトゥルボに貼って乗るようなハードボイルドな生き方は君には似合わない。嫌ですか、ハードボイルドに行きたいですか、実力は後からついてくる派ですか。
それではあなた、サドルをもっと上げなさい。
ペダルを一番下まで踏み込んだ時に、膝がわずかに曲がるか、足首の角度によっては伸ばしきれるくらいにしなさい。ロードレーサーならハンドルと同じくらいの高さになっててもおかしくはないよ。体格や自転車のサイズとかもあるからお店で相談すれば…、あ、君のルイガノ、買った時に調整とかしてないの?
サドルを上げたら足がつかないって?
うん、足はつかないけど何か問題でもある?
止まった時のことなら、サドルの前に尻をずらして、フレームをまたいで立てばいいでしょ。そう、その状態からの漕ぎ出しにとっとと慣れるまでが初心者マークみたいに考えておいてね。縁石か何かに足を乗せるのでもいいけど、これも慣れないでやってるとかえってみっともないからね。
そしてもう一つの秘策を授けよう。
トークリップを付けよう。
ストラップなしのハーフってやつで十分、1,000円も出せば買えるんじゃないかな。ちゃんとした踏み方が身に付くし、ペダルを引き上げることもできるようになる。世界が変わるよ。
あーでもやっぱり君にルイガノは合わないと思うから、僕が乗ってあげるよ。
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